家族信託できる財産・できない財産|預金・不動産・年金・保険を整理

親御様の認知症対策として家族信託を検討するとき、「どの財産を家族信託に入れられるのか」は非常に重要な問題です。

自宅や預貯金は家族信託できると聞いたことがあっても、

「年金も子どもが管理できるのか」

「生命保険も家族信託に入れられるのか」

「株式や投資信託はどうなるのか」

と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

家族信託では、金銭的な価値を持つ財産であれば、幅広い財産を対象にできると考えられています。

しかし、法律上そもそも信託できない財産や、法律上は信託できる財産であっても、金融機関や保険会社の実務上、そのまま信託することが難しい場合があります。

法務省も、金銭や不動産だけでなく、有価証券など幅広い財産を信託財産にできると案内しています。(法務省のホームページはこちら

この記事では、家族信託できる財産とできない財産について、預貯金、不動産、年金、生命保険などに分けて分かりやすく解説します。

このページの目次

家族信託できる財産・できない財産の基本的な考え方

家族信託では、委託者である親御様が所有する財産を、受託者となるお子様などへ託し、信託契約で定めた目的に従って管理してもらいます。

信託財産にできるかどうかを考える際には、主に次の三点を確認します。

・金銭的な価値を持つ財産や権利であるか

・親御様から受託者へ管理権限を移せるか

・金融機関などの関係機関が手続きに対応しているか

法律上は信託できる財産であっても、名義変更の方法がない、あるいは金融機関が信託口座を取り扱っていない、とすると、実際の運用が難しいことがあります。

そのため、「法律上できるか」だけでなく、「契約後に実際に管理できるか」まで確認することが大切です。

 

家族信託できる主な財産を一覧で確認

家族信託の対象として一般的に検討される財産には、次のようなものがあります。

・現金や預貯金から移した金銭

・土地、建物、自宅

・アパート、賃貸マンション、駐車場

・非上場株式などの有価証券

・貸付金などの金銭債権

・自動車や貴金属などの動産

・著作権などの知的財産権

一方で、次のような財産や権利は、そのまま家族信託の対象にすることができない(あるいは難しい)または慎重な確認が必要です。

・公的年金を受給する権利

・生命保険契約上の地位

・金融機関が信託口座に対応していない株式や投資信託

・農地など、移転に許可・届出が必要な財産

・他人との関係上、自由に譲渡できない権利

 

預貯金は家族信託できる?金銭を管理する方法

預貯金は、親御様の介護費用や生活費を準備するため、家族信託でよく利用される財産です。

ただし、親御様名義の普通預金口座を、そのまま受託者名義の口座へ変更するわけではありません。

一般的には、親御様が信託する金額を決め、その金銭を受託者が管理する専用口座へ移します。

預金口座ではなく「金銭」を信託する

銀行口座に入っている預金は、法律上、銀行に対して払い戻しを求める権利です。

家族信託の実務では、親御様の口座そのものを受託者へ渡すのではなく、口座から必要な金銭を移し、その金銭を信託財産として管理します。

受託者は、自分の生活費に使う口座とは分けて、信託財産専用の口座で管理する必要があります。

信託口口座の対応は金融機関によって異なる

家族信託で使用する口座は、「信託口口座」「信託専用口座」などと呼ばれます。

もっとも、すべての銀行が家族信託の口座開設に対応しているわけではありません。

口座名義や必要書類、契約書の内容など、金融機関によって取扱いが異なります。

全国銀行協会の研究資料でも、民事信託における受託者名義の預金口座には、金融機関ごとの実務上の課題があることが示されています。(上記全国銀行協会の研究資料についてはこちら

家族信託契約を作成する前に、利用予定の金融機関へ対応状況を確認することが重要です。

 

土地・建物などの不動産は家族信託できる

自宅、土地、アパートなどの不動産は、家族信託の対象として代表的な財産です。

親御様が元気なうちに不動産を信託しておけば、認知症になった後も、受託者が契約で与えられた権限に基づいて管理できます。

不動産を信託する場合は登記が必要

不動産を家族信託する場合には、法務局で所有権移転および信託の登記を行います。

登記上の所有者は受託者となりますが、受託者個人の財産になるわけではありません。

登記記録には信託財産であることが記載され、受託者は信託契約の目的に従って管理する必要があります。

不動産登記法にも、信託財産に属する不動産について信託の登記を行う仕組みが定められています。

住宅ローンや抵当権がある場合は事前確認が必要

住宅ローンやアパートローンが残っている不動産でも、法律上、家族信託を検討できる場合があります。

しかし、金融機関との契約では、「第三者への譲渡禁止特約」が定められていることが多いため、所有名義の変更について事前の承諾を求めていることがあります。

金融機関へ相談せずに信託登記をすると、ローン契約上の問題(一括返済など)が生じる可能性があります。

抵当権がある不動産については、家族信託契約を作成する前に必ず金融機関へ確認しましょう。

 

アパートなどの収益不動産を家族信託する場合の注意点

アパートや賃貸マンションは、親御様が認知症になった後も管理を続けなければならないため、家族信託と相性のよい財産です。

受託者へ適切な権限を与えておけば、家賃の受領、修繕費の支払い、管理会社とのやり取りなどを継続することができます。

賃貸経営に必要な権限を契約書へ入れる

アパートを信託する場合には、単に「管理を任せる」と書くだけでは不十分なことがあります。

将来必要となる可能性がある次の権限を検討します。

・賃貸借契約の締結や更新

・家賃や敷金の管理

・建物の修繕

・管理会社の変更

・不動産の売却

・建て替え

・金融機関からの借入れ

もっとも、借入れについては、信託契約に権限を定めても、金融機関が融資に応じるとは限りません。

将来、建て替えや大規模修繕を予定している場合には、契約前から金融機関や税理士などと連携する必要があります。

 

ここまでお読みの皆様へ

 

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株式・投資信託・有価証券は家族信託できる?

株式や国債などの有価証券も、法律上は信託財産になり得ます。

法務省の信託制度パンフレットでも、有価証券が信託財産の例として挙げられています。

しかし、上場株式や投資信託については、証券会社が家族信託用の口座に対応しているかが問題になります。

証券会社の対応状況を確認する

証券会社によっては、受託者名義の信託口座を取り扱っていないことがあります。

法律上は信託できるとしても、株式を移管する口座がなければ、実際の手続きを進められません。

近年は、日本証券業協会が、将来の判断能力低下に備えて家族代理人が取引できる「家族サポート証券口座」の仕組みを整備しています。(日本証券業協会のホームページはこちら

ただし、これは家族信託そのものではなく、任意代理契約を利用した別の仕組みです。

家族信託、家族代理人制度、成年後見制度のどれが適しているかを、保有する金融商品と証券会社の対応状況に応じて検討しましょう。

NISA口座は特に慎重な確認が必要

NISA口座は、本人に対して設けられる税制優遇口座です。

保有する株式や投資信託を家族信託へ移すと、NISA口座内での保有を継続できない可能性があります。

税務上の取扱いも関係するため、証券会社や税理士へ確認せずに進めることはおすすめできません。

 

生命保険は家族信託できる?保険契約と保険金の違い

生命保険については、「保険契約そのもの」と「保険金や解約返戻金として受け取った金銭」を分けて考える必要があります。

生命保険契約そのものを信託するのは簡単ではない

生命保険契約には、契約者、被保険者、保険金受取人という複数の立場があります。

保険契約者の変更や受取人の変更は、保険会社の約款や手続きに従って行います。

契約者と被保険者が異なる場合には、通常、被保険者の同意も必要です。

家族信託契約に「生命保険を信託する」と記載しただけで、保険会社における契約者の地位が当然に受託者へ移るわけではありません。

まずは加入している保険会社へ、契約者変更などが可能か確認する必要があります。

受け取った保険金や解約返戻金は金銭として検討できる

解約返戻金や満期保険金などを受け取った後は、その金銭を信託財産として管理できる場合があります。

ただし、誰が保険金を受け取るのかによって、その金銭の所有者や税金の種類が変わります。

一般財団法人生命保険文化センターも、契約者、被保険者、受取人の関係によって、相続税、所得税、贈与税などの取扱いが変わると案内しています。(詳しくはこちら

生命保険を家族信託と組み合わせる場合には、保険会社と税理士の確認が欠かせません。

 

公的年金の受給権は家族信託できない

老齢基礎年金や老齢厚生年金など、公的年金を受け取る権利そのものは、家族信託の対象にできません。

国民年金法や厚生年金保険法では、年金給付を受ける権利について、譲渡や担保提供などが禁止されています。

年金を受け取る権利は本人に属する

親御様が年金を受け取る権利を、受託者である子どもへ移すことはできません。

年金は、これまでどおり親御様本人の名義で受給します。

家族信託契約書に「年金を受託者が受け取る」と記載しても、それだけで受給権が移ることはありません。

振り込まれた後の金銭は別に考える

年金受給権そのものは信託できませんが、年金として支払われた後の金銭は、通常の金銭です。

親御様に判断能力があるうちに、その一部を追加で信託し、生活費や介護費用として管理する方法は検討できます。

ただし、親御様の年金が振り込まれるたびに、家族が勝手に資金を移動できるわけではありません。

親御様に判断能力が亡くなった場合、年金として支払われた金銭の管理方法については、金家族信託と併せて、任意後見契約や金融機関の代理人制度などを検討するべきでしょう。

 

現金・自社株・貸付金など、そのほかに家族信託できる財産

預貯金や不動産以外にも、次の財産を家族信託できる可能性があります。

現金

手元に保管している現金も、信託財産にできます。

ただし、現金のまま管理すると、受託者個人の財産との区別が分かりにくくなります。

実際には、信託専用口座へ入金して管理する方が安全です。

自社株・非上場株式

会社経営者の認知症対策や事業承継では、自社株を家族信託することがあります。(認知症対策以外の家族信託の活用については、こちらの記事をご覧ください。)

受託者に株式を託しながら、議決権の行使方法や後継者への承継を設計できる場合があります。

ただし、会社の定款に譲渡制限がある場合には、承認手続きが必要です。

税務上の影響も大きいため、司法書士、税理士、会社の顧問専門家などによる連携が必要です。

貸付金などの金銭債権

親御様が第三者や同族会社へ金銭を貸している場合、その返還請求権を信託できる場合があります。

受託者が返済を受け、信託財産として管理する仕組みです。

ただし、契約上、債権の譲渡が制限されていることもあるため、元の契約書を確認しなければなりません。

 

家族信託できない財産・権利とは?

家族信託できない、または通常の家族信託には適さない財産として、主に次のものがあります。

・公的年金を受ける権利

・扶養を受ける権利など、本人に専属する権利

・生命保険契約上の地位のうち、保険会社の承認なく移転できないもの

・許認可や会員資格など、本人の地位に基づく権利

・譲渡が禁止されている権利

・金銭的価値を評価できない権利

また、成年後見人の選任、医療同意、介護施設への入所などは、財産ではありません。

家族信託で財産管理を任せても、本人の生活や医療に関するすべての行為を受託者が代わりに行えるわけではありません。

 

家族信託できても事前確認が必要な財産

次の財産は、法律上は家族信託を検討できても、関係機関との調整が必要です。

・住宅ローンやアパートローンが残る不動産

・農地

・共有不動産

・上場株式や投資信託

・自社株

・外国にある財産

・借地権や底地

・生命保険に関する権利

例えば、共有不動産では、親御様の共有持分だけを信託することは可能でも、不動産全体を売却するには他の共有者の協力が必要です。

「家族信託できる」ということと、「受託者だけで希望する手続きができる」ということは同じではありません。

 

すべての財産を家族信託する必要はない

家族信託を利用するとき、親御様のすべての財産を信託する必要はありません。

むしろ、必要性の低い財産まで信託すると、受託者の管理負担や契約費用が増えることがあります。

例えば、次の財産を優先して検討します。

・将来売却する可能性がある自宅

・管理を止められないアパート

・介護費用として使用する予定の預貯金

・後継者へ引き継ぎたい自社株

一方、日常生活で親御様自身が使用する少額の預貯金は、本人名義の口座に残す方法もあります。

 

家族信託する財産を選ぶ際のポイント

信託する財産を選ぶときは、現在の財産額だけでなく、将来の使い道を考えることが大切です。

認知症になった後に何をする可能性があるか

まず、親御様が認知症になった後に起こり得る場面を想定します。

・施設への入所費用を支払う

・空き家となった自宅を売却する

・アパートを修繕する

・家賃収入を生活費へ充てる

・事業を後継者へ引き継ぐ

必要となる手続きから逆算すると、信託すべき財産が見えやすくなります。

受託者が継続して管理できるか

財産を信託すると、受託者には帳簿作成や収支管理などの責任が生じます。

多数の不動産や株式を一度に信託すると、受託者の負担が大きくなることがあります。

受託者が無理なく管理できる範囲も考慮しましょう。

家族信託以外の制度で補えるか

年金、生命保険、医療や介護に関する手続きなど、家族信託だけでは対応できない分野もあります。

必要に応じて、次の制度を組み合わせます。

・遺言書

・任意後見契約

・財産管理委任契約

・生命保険の指定代理請求制度

・金融機関や証券会社の家族代理人制度

家族信託できる財産に関するよくある質問

以下では、家族信託をご検討のお客様から「家族信託できる財産」に関するよくある質問について解説いたします。

親の銀行口座をそのまま子ども名義にできますか?

いいえ。

親御様名義の銀行口座をそのまま子どもの信託口座へ名義変更するのではありません。

信託する金銭を決め、受託者が管理する専用口座へ移して管理します。

家族信託した自宅に親は住み続けられますか?

はい。

親御様を受益者とし、自宅に住み続けられる内容で契約を設計することができます。

不動産の管理名義が受託者になっても、親御様が直ちに退去しなければならないわけではありません。

年金の振込先を信託口口座にできますか?

できません。

公的年金の受給権は本人に属するため、信託口口座や信託専用口座を受取口座に指定することはできません。

生命保険の死亡保険金を家族信託できますか?

死亡保険金は、指定された受取人が保険会社へ請求して受け取ります。

家族信託契約だけで、死亡保険金の受取人を自動的に受託者へ変更することはできません。

保険金を受け取った後の管理まで考える場合には、受取人の設定、遺言、保険会社の商品や信託の仕組みを含めて検討する必要があります。

 

まとめ|財産ごとの特徴を確認して家族信託の対象を決めよう

家族信託では、金銭、不動産、有価証券、自社株、貸付金など、幅広い財産を対象にできます。

一方、公的年金を受ける権利は本人に専属するため、原則として信託できません。

生命保険についても、保険契約そのものを家族信託へ入れるのは簡単ではなく、保険会社の手続きや契約内容を確認する必要があります。

また、法律上は信託できる財産であっても、金融機関が口座開設や名義変更に対応していなければ、実際の運用が難しくなることがあります。

大切なのは、親御様のすべての財産を家族信託することではありません。

将来、認知症になったときに管理や処分で困る可能性が高い財産を選び、必要な範囲で信託することです。

司法書士法人あかつき総合法務事務所では、ご家族の状況や親御様が所有する財産を確認したうえで、家族信託の対象にする財産と、別の方法で管理する財産を整理しています。

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