親が認知症になってからでも家族信託はできる?判断能力の目安を解説

親御様の認知症対策として家族信託を検討している方から、

「親が認知症と診断されてしまったけれど、まだ家族信託はできるのでしょうか?」

というご相談をいただくことがよくあります。

認知症は誰にでも起こり得るものであり、「もっと早く相談しておけばよかった」と後悔されるご家族も少なくありません。

結論から申し上げると、認知症と診断されたからといって、直ちに家族信託ができなくなるわけではありません。

一方で、家族信託は本人の「判断能力」があることを前提とした契約です。

認知症が進行し、ご本人が契約内容を理解できない状態になると、新たに家族信託を始めることは難しくなります。

つまり、「認知症かどうか」ではなく、「契約内容を理解し、自分の意思で契約できる状態かどうか」が重要になります。

この記事では、家族信託と判断能力の関係、認知症の進行段階ごとの考え方、家族信託が難しい場合の対応方法まで、司法書士が分かりやすく解説します。

 

このページの目次

親が認知症になってから家族信託はできる?結論から解説

家族信託を利用するためには、ご本人が契約内容を理解し、自分の意思で契約を締結できる状態であることが必要です。

そのため、「認知症」という診断名だけで判断するのではなく、「現在の判断能力」が最も重要なポイントになります。

家族信託は本人に判断能力があることが前提

家族信託は契約です。

契約を締結するためには、

・誰に財産管理を任せるのか

・どの財産を信託するのか

・どのような目的で契約するのか

といった内容を理解し、自らの意思で契約する必要があります。

例えば、

「息子に自宅の管理を任せたい」

「認知症になっても自宅を売却できるようにしておきたい」

という内容をご本人が理解し、納得して契約できる状態であれば、家族信託を利用できる可能性があります。

認知症と診断されてもすぐに契約できなくなるわけではない

「認知症」と診断されたからといって、すぐに判断能力が失われるわけではありません。

認知症には進行の程度があり、初期の段階では日常生活を問題なく送っている方も多くいらっしゃいます。

そのため、

「認知症だからできない」

ではなく、

「契約内容を理解できる状態か」

という点を個別に確認する必要があります。

反対に、認知症という診断を受けていなくても、判断能力が大きく低下している場合には契約できないこともあります。

 

家族信託で重要となる「判断能力」とは?

家族信託について調べていると、「判断能力」という言葉をよく目にします。

しかし、「判断能力とは具体的に何を指すのか」が分かりにくいという方も多いのではないでしょうか。

ここでは、家族信託における判断能力についてご説明します。

法律上の判断能力とは何を意味するのか

法律上の判断能力とは、契約内容を理解し、その結果を判断できる能力をいいます。

家族信託では、

・誰へ財産管理を任せるのか

・どの財産が信託財産になるのか

・契約後にどのような管理が行われるのか

を理解したうえで契約する必要があります。

難しい法律用語をすべて理解している必要はありませんが、「何のために契約するのか」という大まかな内容を理解できることが求められます。

医師の診断と契約できるかどうかは必ずしも一致しない

「認知症と診断されたら家族信託はできない」と思われる方も多いのですが、実際にはそうとは限りません。

医師が認知症と診断することと、法律上の判断能力の有無は、必ずしも一致しないからです。

例えば、

・認知症と診断されていても、契約内容を十分理解できる方

・認知症と診断されていなくても、契約内容を理解することが難しい方

もいらっしゃいます。

そのため、診断名だけではなく、契約時点でのご本人の様子や受け答えなども重要な判断材料となります。

 

認知症の進行段階ごとに家族信託ができる可能性を解説

認知症は、進行の程度によって症状が異なります。

ここでは一般的な目安として、進行段階ごとに家族信託を利用できる可能性をご紹介します。

軽度認知障害(MCI)の場合

軽度認知障害(MCI)は、「認知症の前段階」ともいわれています。

物忘れは増えたものの、日常生活には大きな支障がない状態です。

この段階であれば、ご本人が契約内容を理解できるケースも多く、家族信託を利用できる可能性は十分にあります。

むしろ、認知症対策として家族信託を検討するには、最も適したタイミングといえるでしょう。

認知症初期の場合

認知症初期であっても、契約内容を理解し、自らの意思を明確に示すことができるのであれば、家族信託契約を締結できる可能性があります。

ただし、時間の経過とともに判断能力が低下することも考えられるため、「様子を見よう」と先延ばしにすることはおすすめできません。

家族信託を検討しているのであれば、できるだけ早めに専門家へ相談することが重要です。

認知症中期・重度の場合

認知症が中期から重度まで進行すると、ご本人が契約内容を理解し、自らの意思で契約することが難しくなるケースが多くなります。

例えば、

・家族信託とはどのような契約なのか理解できない

・誰に財産管理を任せるのか判断できない

・契約した結果を理解できない

といった状態では、家族信託契約を締結することは困難です。

家族信託は、ご本人の意思を尊重して契約する制度であるため、判断能力が失われた後に家族だけの判断で契約することはできません。

そのため、「もう少し様子を見よう」と考えているうちに契約できる時期を逃してしまうケースも少なくありません。

いずれも自己判断で「自分たちは家族信託をもう利用できない」とすることはせず、専門家になるべく早めに相談するようにしましょう。

 

家族信託ができるかどうかは誰が判断する?

「親が家族信託を契約できる状態なのか分からない」というご相談は非常に多くいただきます。

では、実際には誰が判断能力を確認するのでしょうか。

以下では、その判断基準をご紹介いたします。

最終的には契約時の本人の意思能力が重要

家族信託では、「認知症という診断名」ではなく、「契約時点で契約内容を理解し、自分の意思で契約できるかどうか」が重要になります。

そのため、

・財産管理を誰へ任せるのか

・なぜ家族信託を利用するのか

・契約後にどのような管理が行われるのか

などについて、ご本人が理解しているかどうかを確認しながら手続きを進めます。

司法書士・公証人・金融機関などが確認するポイント

家族信託では、契約内容を作成する司法書士だけでなく、公正証書で契約を作成する場合には公証人も本人確認意思能力を確認します。

本人確認とは、自分自身の名前・生年月日・住所などを聞かれたときに、正確に答えられることができるか等を確認することによって行います。

意思確認とは、家族信託においては、「自分のどの財産を誰に預けるのか」「預けた財産を最終的には誰に渡したいのか」など、契約の骨子部分を確認することによって行います。

家族信託の契約時や家族信託用の銀行口座(信託口口座)を開設時には、上記の本人確認と意思確認を行い、家族信託や口座開設を進めて良いかを判断していきます。

 

親の判断能力が低下していると感じたら早めに相談すべき理由

家族信託を検討するうえで最も重要なのは、「まだ大丈夫」と思っているうちに相談することです。

判断能力は、ある日突然ゼロになるわけではありません。

しかし、一度契約できない状態になると、家族信託という選択肢を取ることができなくなります。

判断能力はある日突然失われるものではない

認知症は少しずつ進行することが一般的です。

昨日までできていたことが、数か月後には難しくなっているということも珍しくありません。

だからこそ、

「最近、同じ話を何度もするようになった」

「物忘れが増えてきた」

と感じた段階で相談することが大切です。

相談が早いほど選択肢は多くなる

判断能力が十分にある段階であれば、

・家族信託

・公正証書遺言

・任意後見契約

など、ご家庭に合わせた様々な方法を検討できます。

一方、判断能力が失われた後では、利用できる制度が限られてしまいます。

そのため、「今すぐ契約するかどうか」は別としても、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

 

すでに家族信託ができない場合の対処法

判断能力が低下し、家族信託を利用することが難しい場合でも、財産管理の方法が全くなくなるわけではありません。

状況に応じて、他の制度を検討することが重要です。

成年後見制度を利用する

すでに判断能力が失われている場合には、成年後見制度を利用することになります。

成年後見制度では、家庭裁判所が選任した成年後見人が、ご本人の財産管理や法律行為を支援します。

家族信託とは目的や運用方法が異なるため、それぞれの制度の特徴を理解したうえで選択することが大切です。(成年後見制度については、こちらの記事をご覧ください。)

遺言書が作成できる可能性を確認する

家族信託は難しくても、遺言書については作成できる可能性が残されていることがあります。

遺言能力と契約能力は必ずしも同じではないため、個別に判断する必要があります。

「もう何もできない」と決めつけるのではなく、専門家へ相談し、利用できる制度がないか確認することをおすすめします。

家族で今後の財産管理について話し合う

制度を利用するだけでなく、ご家族全員で今後の介護や財産管理について話し合うことも大切です。

家族間で情報を共有しておくことで、将来のトラブルを防ぎやすくなります。

 

家族信託を検討する際によくある質問

家族信託を検討する際に、「父親が認知症かもしれないけど、本当に契約できるのか」というご心配をお持ちの方は多いです。

実際にお客様からよくある質問をご紹介していきます。

認知症と診断されたら家族信託はできませんか?

いいえ。

認知症という診断だけで判断されるわけではありません。

契約内容を理解し、自らの意思で契約できる状態であれば、家族信託を利用できる可能性があります。

病院で認知症と言われていなくても契約できないことはありますか?

あります。

診断名ではなく、契約時点での判断能力が重要になるため、認知症と診断されていなくても契約できない場合があります。

診断書は必ず必要ですか?

法律上、家族信託契約に診断書が必須というわけではありません。

ただし、ご本人の状況によっては診断書を取得した方が望ましいケースや公証役場で実際に診断書の提出を求められることもあります。

施設へ入所していても家族信託はできますか?

施設へ入所していることだけを理由に家族信託ができなくなるわけではありません。

契約内容を理解し、自らの意思で契約できる状態であれば、施設へ入所していても契約できる可能性があります。

その際には、手数料はかかりますが、管轄の公証役場の公証人が施設に出張していただくことになります。(公証役場への手数料は、こちらをご覧ください。)

 

まとめ|家族信託は「認知症になる前」の相談が何より重要

家族信託は、認知症対策として非常に有効な制度ですが、誰でもいつでも利用できる制度ではありません。

最も重要なのは、ご本人に契約内容を理解できる判断能力があることです。

認知症と診断されたからといって、直ちに契約できなくなるわけではありませんが、時間の経過とともに判断能力が低下する可能性があります。

そのため、「もう少し様子を見よう」と考えているうちに、家族信託という選択肢を失ってしまうことも少なくありません。

一方で、早めに相談することで、家族信託だけでなく、公正証書遺言や任意後見契約など、ご家庭の状況に合った様々な方法を検討できます。

司法書士法人あかつき総合法務事務所では、ご本人の現在の状況やご家族のお考えを丁寧にお伺いしたうえで、家族信託が適しているのか、それとも他の制度を活用した方がよいのかを分かりやすくご提案しております。

「親が認知症と診断されたけれど、まだ間に合うのだろうか」

「家族信託ができるかどうか、一度相談してみたい」

そのようなお悩みがございましたら、どうぞお気軽に司法書士法人あかつき総合法務事務所までご相談ください。

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