「親が認知症になる前に家族信託を考えたい。ただ、どのくらいの費用がかかるのか分からず、決断できない」
このように、家族信託の必要性は感じていても、料金の部分で検討が止まっている方は少なくありません。
家族信託にかかる費用は、預貯金だけを管理するのか、自宅や賃貸不動産も含めるのか、親が亡くなった後に財産をどのように引き継ぐのかによって変わります。
この記事では、家族信託に必要な司法書士報酬、公証人手数料、登記費用などを分けて説明し、財産内容ごとの総額を具体的に解説します。
※本記事に記載する金額や制度は、令和8年7月時点のものです。
このページの目次
家族信託にかかる費用の総額はいくら?
司法書士などの専門家に家族信託の設計から契約書の作成までを依頼した場合、費用の総額は、おおむね50万円から100万円程度が一つの目安です。
預貯金だけを対象とする比較的簡単な家族信託であれば、30万円台から始められる場合もあります。
一方、自宅やアパートなどの不動産を信託する場合には、登記費用が加わるため、総額は高くなります。
大切なのは、家族信託の費用を「契約書を一通作成する料金」と考えないことです。
実際には、親御様の希望や家族関係を確認し、財産を調査したうえで、認知症になった後の管理方法や、亡くなった後の財産承継まで考えて仕組みを設計します。
その後、公証役場、金融機関、法務局などとの手続きを進めるため、家族信託の内容によって費用に幅が生じるのです。
家族信託の費用は「司法書士報酬」と「実費」に分けられる
家族信託の見積書を確認するときは、費用を「司法書士報酬」と「実費」の二つに分けて考えると、内容を理解しやすくなります。
司法書士報酬
司法書士報酬は、家族信託の設計、契約書案の作成、公証役場との調整、信託口口座の開設支援、不動産登記など、司法書士が行う業務への対価です。
司法書士報酬は全国一律ではなく、各事務所が業務内容や作業量に応じて料金を定めています。
同じような料金に見えても、家族との面談、公証役場とのやり取り、金融機関との調整、契約後の相談などが含まれているかによって、サービスの範囲は異なります。
手続きのために必要となる実費
実費には、主に次のようなものがあります。
・公正証書を作成するための公証人手数料
・不動産を信託する場合の登録免許税
・戸籍謄本や印鑑証明書などの取得費用
・登記事項証明書や固定資産評価証明書の取得費用
・郵送費や(司法書士や公証人等の)交通費
これらは司法書士の利益になる費用ではなく、公証役場、法務局、市区町村などへ支払うものです。
したがって、「司法書士報酬38万5,000円」と表示されていても、必ず総額が38万5,000円になるわけではありません。
報酬と実費を分けて確認することが大切です。
家族信託を司法書士に依頼する場合の報酬相場
司法書士の報酬には、信託財産の金額に応じて段階的に計算する方式と、基本料金に業務ごとの料金を加える方式があります。
料金を比較する際は、表示された金額だけでなく、どこまでの業務が含まれているかを確認しましょう。
司法書士法人あかつき総合法務事務所の「家族信託お任せパック」は、信託財産が3,000万円以下の場合、報酬38万5,000円(税込)です。
この料金には、家族信託契約書の原案作成、公証役場とのやり取り、信託口座の開設支援などが含まれています。
不動産を信託する場合の登記報酬と実費は別途必要です。
信託財産が3,000万円を超える場合には、超過部分について財産額に応じた報酬が加算されます。(詳しくは、料金表をご確認ください。)
家族信託契約を公正証書にする場合の公証人手数料
家族信託契約は、公正証書にしなければ成立しないわけではありません。
しかし、親御様がご自身の意思で契約したことを明確にし、契約内容を公的な記録として残すため、実務上は公正証書で作成することが一般的です。
また、信託口口座を開設する金融機関から、公正証書による契約書の提出を求められることもあります。
公証人手数料は、契約の目的価額に応じて計算されます。
令和7年10月1日以降の基準では、目的価額が1,000万円を超え3,000万円以下の場合は2万6,000円、3,000万円を超え5,000万円以下の場合は3万3,000円、5,000万円を超え1億円以下の場合は4万9,000円です。
さらに、信託財産の価額が1億円以下の場合には、信託契約に関する手数料として1万3,000円が加算されます。
正本や謄本の交付費用なども別途必要です。(詳しくは、日本公証人連合会のホームページをご覧ください。)
不動産を家族信託する場合の登記費用
土地や建物を家族信託の対象にする場合には、その不動産が信託財産になったことを法務局で登記します。
このときに必要となるのが、登記を申請する司法書士の報酬と、法務局へ納付する登録免許税です。
登録免許税は、原則として不動産の固定資産税評価額を基準に計算します。
令和8年7月現在、土地の所有権の信託登記は固定資産税評価額の0.3パーセント、建物は0.4パーセントです。
土地の0.3パーセントという軽減税率は、令和11年3月31日まで延長されています。
例えば、土地の固定資産税評価額が2,000万円、建物が1,000万円の場合、登録免許税は次のようになります。
土地 2,000万円×0.3パーセント=6万円
建物 1,000万円×0.4パーセント=4万円
この場合、登録免許税は合計10万円です。
司法書士法人あかつき総合法務事務所では、不動産評価額が5,000万円未満の場合、所有権移転・信託登記の基本報酬を8万8,000円(税込)としています。
不動産の数が多い場合や、複数の法務局へ申請する場合などには、追加料金が必要となることがあります。(詳しくは、料金表をご確認ください。)
家族信託でその他にかかる可能性がある費用
家族信託の内容やご家庭の事情によっては、公証人手数料や登記費用以外にも費用が発生します。
主なものとして、次の費用が考えられます。
・戸籍謄本、住民票、印鑑証明書などの取得費用
・信託口口座や信託専用口座に関する金融機関の手数料
・相続税や所得税について税理士へ相談する費用
・親族間の意見対立について弁護士へ相談する費用
・遠方への出張や複数回の面談にかかる費用
・遺言書や任意後見契約を併せて作成する費用
家族信託は、主に財産の管理を行う仕組みです。
施設への入所契約など、生活や介護に関する法律行為のすべてを家族信託だけで対応できるわけではありません。
そのため、ご家庭によっては、任意後見契約や遺言書などを組み合わせる必要があります。
財産の内容・金額別に見る家族信託の費用シミュレーション
ここからは、司法書士法人あかつき総合法務事務所の現行料金をもとに、家族信託にかかる費用の総額を試算します。
実際の費用は、契約内容、公証人による目的価額の判断、不動産の数などによって変わります。
以下は正式な見積額ではなく、検討時の目安としてご覧ください。
(詳しくは、料金表をご確認ください。)
預貯金2,000万円を信託する場合
預貯金2,000万円のみを信託する場合、司法書士報酬38万5,000円に、公証人手数料や証明書取得費用などを加えます。
総額は、おおむね43万円から46万円程度が目安です。
不動産を信託しないため、不動産登記の報酬と登録免許税はかかりません。
自宅と預貯金を信託する場合
固定資産税評価額が土地1,500万円、建物500万円の自宅と、預貯金500万円を信託するケースを考えます。
司法書士報酬38万5,000円、登記報酬8万8,000円、登録免許税約6万5,000円に、公証人手数料などが加わります。
この場合、総額はおおむね58万円から62万円程度が目安です。
アパートと預貯金を信託する場合
信託財産の総額が6,000万円で、その中に固定資産税評価額3,000万円の土地と、2,000万円の建物が含まれるケースを考えます。
財産額に応じた司法書士報酬、登記報酬、登録免許税約17万円、公証人手数料などを合わせると、総額は95万円前後になる可能性があります。
賃貸不動産では、家賃の管理、大規模修繕、建て替え、借入れ、将来の売却なども考慮して契約内容を設計するため、自宅だけを信託する場合より検討事項が多くなる傾向があります。
家族信託の費用が高くなりやすいケース
家族信託の費用が高くなるのは、信託財産の金額が大きい場合だけではありません。
例えば、次のようなケースでは検討事項や手続きが増えるため、費用が高くなることがあります。
・複数の不動産を信託する
・不動産を管轄する法務局が分かれている
・住宅ローンやアパートローンが残っている
・受託者や受益者が複数いる
・兄弟姉妹間の調整が必要である
・受託者が先に亡くなった場合に備える
・親御様の死亡後も信託を継続させる
・次の世代、その次の世代まで承継先を定める
反対に、財産額が大きくても、家族関係と財産構成が比較的単純で、家族信託の目的が明確であれば、必要な作業を抑えられることがあります。
家族信託の費用は、「財産がいくらあるか」だけでなく、「どのような将来を実現したいか」によっても変わります。
家族信託の費用を抑えるためのポイント
家族信託の費用を抑えるために大切なのは、単に料金の安い事務所を探すことではありません。
まず、家族信託をする目的と、信託する必要がある財産を整理しましょう。
親御様が所有するすべての財産を信託する必要はありません。
将来売却する可能性がある自宅、管理を止められない賃貸不動産、施設費や生活費として管理したい預貯金など、認知症になった後に困る可能性が高い財産を優先して検討します。
また、相談前に次の資料を用意しておくと、見積もりの精度が上がります。
・預貯金や有価証券の一覧
・固定資産税の納税通知書
・不動産の登記事項証明書
・家族関係が分かる簡単な図
・将来どのように財産を管理したいか
ただし、費用を下げるためだけに必要な条項や手続きを省くと、将来利用できない家族信託になるおそれがあります。
家族信託の手続きを自分ですれば費用を抑えられる?
家族信託契約書を自分で作成し、不動産登記を本人で申請すること自体は可能です。
しかし、家族信託では、誰にどのような権限を与えるのか、親御様が亡くなった後に財産を誰へ渡すのか、受託者が先に亡くなった場合にどうするのかなどを、契約時に決めなければなりません。
インターネット上のひな形をそのまま使用すると、不動産を売却する権限が不足していたり、信託終了後の財産の帰属先が希望と異なっていたりすることがあります。
公証役場、金融機関、法務局から修正を求められ、結果として時間と費用が増える可能性もあります。
家族信託は長期間にわたって使用する仕組みです。少なくとも、契約内容の設計については専門家へ相談することを強くおすすめします。
家族信託と成年後見制度ではどちらの費用が高い?
家族信託は、契約を開始する時点でまとまった費用がかかります。
一方、成年後見制度では、申立手数料800円、後見登記手数料2,600円、郵便料などが必要です。
本人の判断能力について鑑定を行う場合には、別途、鑑定費用が発生することもあります。
司法書士や弁護士などの専門職が成年後見人に選任された場合、その報酬額は家庭裁判所が決定します。
裁判所が示している標準的な目安では、通常の後見事務で月額2万円、管理する財産が多い場合には月額3万円から6万円とされる例があります。
成年後見制度が数年間継続すれば、専門職後見人への報酬の合計が、家族信託の初期費用を上回る可能性もあります。
ただし、家族信託と成年後見制度では役割が異なります。
費用だけで選ぶのではなく、財産を柔軟に管理したいのか、生活や介護に関する法律行為まで支援する必要があるのかを基準に検討することが大切です。(家族信託と成年後見制度の違いについては、こちらの記事をご覧ください。)
司法書士から見積もりを取る際に確認したいポイント
家族信託の見積額を比較するときは、最初に表示された金額だけで判断してはいけません。
次の点を確認しましょう。
・表示された金額は税込みか
・公証人手数料や登録免許税を含むか
・不動産登記の司法書士報酬を含むか
・公証役場との調整を含むか
・金融機関との調整や口座開設支援を含むか
・契約後の相談や変更対応を含むか
・どのような場合に追加料金が発生するか
最初の表示額が安くても、必要な業務がすべて別料金であれば、最終的な総額が高くなることがあります。
親御様の財産状況と家族の希望を伝えたうえで、総額と業務範囲が分かる見積書を受け取ることが、納得できる依頼につながります。
家族信託の費用に関するよくある質問
最後に、家族信託の費用について、ご相談時によくいただく質問を紹介します。
① 公正証書にしなければ費用を節約できますか?
家族信託契約を公正証書にしなくても、契約が直ちに無効になるわけではありません。
しかし、親御様の判断能力や契約内容を後から争われる危険や、金融機関での手続きに利用できない危険を考えると、単純な費用削減だけを理由に公正証書を省くことはおすすめできません。
② 相談した日に正確な見積もりは出ますか?
財産資料と希望する内容がそろっていれば、相談時に概算をお伝えできる場合があります。
ただし、不動産の登記内容、家族関係、金融機関との調整の要否などを確認してから、正式な見積額が決まることもあります。
③ 費用が高いほど良い家族信託になりますか?
必ずしも、料金が高ければ良い家族信託になるわけではありません。
重要なのは、ご家庭に必要な契約設計と手続きが、過不足なく料金に含まれていることです。
まとめ|家族信託の費用は財産や契約内容によって異なる
家族信託の費用は、おおむね50万円から100万円程度が一つの目安です。
ただし、預貯金だけを信託するのか、不動産を含めるのか、どこまでの業務を専門家に依頼するのかによって、実際の総額は変わります。
金額だけを見ると、高いと感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、家族信託は、親御様が認知症になった後も、自宅の売却、施設費の支払い、アパートの管理などを家族が続けられるよう、元気なうちに準備する仕組みです。
将来できなくなる手続きや、成年後見制度を利用した場合の継続的な負担まで含めて考えると、家族信託の初期費用が持つ意味を理解しやすくなります。
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